カズブロ★~アイルーファンの日々

アイルー村ファンの思うところ

【レビュー】映画「モンスターハンター」、ハンター歴11年くらいのオタクの感想

f:id:kazuchuugougo2000:20210331214612j:image

アイ変わらずのラニャーニャ村のカクです。さて、ずいぶん待たされた(その間に悪い評判もずいぶん舞い込んできた)モンスターハンター初の実写映画、ポールアンダーソン監督「モンスターハンター」、公開初日の初回に見てきました。約1週間くらい経って感想がまとまったので、ここに書き記します。

正直言って、映画のレビューとかは慣れていないので、拙い文章ですが、興味のある方はお付き合いください。

検索サジェストに「映画モンハン ひどい」と出てくるくらい雲行きの怪しい映画ですが、このレビューが何かの手助けになればと。

!WARNING!

この記事には映画モンスターハンター」のネタバレを含みます。映画を鑑賞したあとに読むことをおすすめします。

前提条件

  • 字幕版で鑑賞
  • どちらかと言うと世界観やモンスターを愛してるタイプのオタクです
  • バイオシリーズ全然観てませんし原作も怖いのでやってません
  • 俳優の名前も知りません
  • ポケモンソニックも好きなので「名探偵ピカチュウ」「ソニック・ザ・ムービー」との比較が多くなります

一般的な映画としてダメなところ

画面暗すぎ問題

冒頭、夜の砂漠を進む船がディアブロス亜種に襲われるシーンから映画は始まりますが、はっきり言って暗すぎて何が起こっているのかよくわかりません。かなり前のCG技術が未発達な頃の映画では「画面を暗くしてCGの出来を誤魔化す」という手法はよく見られましたが、まさか2020年になってこれをやられるとは。ネルスキュラと対峙する洞窟のシーン、そして終盤リオレウスに立ち向かうシーンも暗いシーン。(明るい戦闘シーンの方が少ないです。と言っても7:3くらいの割合ですが)

スローモーション使いすぎ問題

もう一つアクションシーンの問題を。この映画ではアクションシーンでスローモーションが多用されます。それはもうしつこいくらいに。おかげでアルテミスの御姿はじっくり見られますが、我々が見たいのはモンハンの映画であってミラジョボビッチのPVではありません。モンスター側のアクションではスローモーションが皆無(せっかくモデルは作り込まれてるのに)で、一瞬で出番が終わるモンスターもいるのも人間側のアクションのスローモーションかけすぎ問題を余計印象つけています。

しつこいといえば転がされる軍用車の中を映したカットも何回も使われてました。流石にもう飽きたよ!アニメのバンクじゃないんだから!

どうでもいいところに尺取りすぎ問題

この映画の評価を下げている最大の問題点だと思います。

まずは序盤。モンハン世界に入ってすぐ死ぬアルテミスの部下たちの紹介描写に時間を割きすぎ。ダッシュとかリンクとか名前はどうでもいいし、どうせアルテミス以外全員死ぬことは分かっているので名有りモブと行っても差し支えないキャラのセリフに尺を取りすぎている感があります。この部下たちの会話の中で後述する差別的なアドリブが生まれたと思うと、尚更ここは不要でした。またネルスキュラから命からがら逃げ出したアルテミスが婚約指輪の入った缶をなぜかカラカラ振り、中身にキスして思いを馳せる描写、ここもアルテミスの「露骨な人間アピール」「露骨な女性らしさアピール」としか思えません。どうせお相手の男性は映画が終わるまで出ないので、この描写は忘れてしまって結構です。

さらに酷いのが中盤。出会ったばかりのアルテミスとハンターはお互いを警戒し、日を跨いで2回ほど長々と殴り合いを繰り広げます。この人間同士の格闘が本当に長すぎで、怪獣映画である本作では間違いなく求められていないシーンです。さっきまでハンターに「殺してやる」とまで言っていたアルテミスが、ハンターがネルスキュラの巣に落ちそうになったので急に助けて、和解する描写も唐突。本当に殺したいのなら見殺しにしてもいいのにおもしれー女すぎるでしょミラジョボさん。

中盤のクソ退屈なヒューマン同士の殴り合いを乗り越えたら多少「これは無駄尺でしょ…」と思うシーンは減ります。待っているのはアルテミスとハンターの異文化交流、そしてディアブロス亜種やリオレウスの活躍です。前半が本当に退屈な映画なので、多少劇場に遅れて入っても問題ないと思います。

筋書きは空っぽ

この映画の脚本は正直言って筋が通っておらず、行き当たりばったりです。だからこそ不要と感じられる描写も多いし、盛り上がりにもカタルシスにも欠けます。まあ、元々のモンスターハンターシリーズ、および怪獣映画はそんなにストーリーの出来が重視されるものでもありませんが…

投げっぱなしのクリフハンガー

そして最低最悪なのがラスト。現実世界に入り込んでしまったリオレウスをなんとか倒し、まだ閉じていないポータルからゴア・マガラが登場。こいつも倒すぞ!うぉおおおお!完。打ち切り漫画か??オシシ仮面もびっくりの続編へ投げっぱなしエンド。正直この出来で続編は作ってほしくないです。「名探偵ピカチュウ」が物語をきちんと完結させて最高のスタッフロールを迎えたり、「ソニック」も話にはケリをつけつつ次回作への期待を煽るファン歓喜のシーンを見せたりしていたのに対して、この「モンハン」の恥知らずなエンディング。脱力ものです。

モンスターハンター」の映画としてダメなところ

原作の要素の軽視

「バイオ」がシリーズを重ねるごとに原作と乖離していった反省からか、今回の「モンハン」は原作の制作陣によって厳密に監修されている点がセールスポイントとして打ち出されていましたが、実際の映画と各メディアで公開されたインタビューを照らし合わせた結果「ああこれ一応カプコンは目を通して意見は出してるけどことごとく映画には反映されなかったんだな」と思ってしまいました。それくらい、モンハンの本質的な部分は表現できていない映画化です。

モンハンシリーズはリアリティを重視して生態が作り込まれたモンスターの数々が最大の魅力の一つ。「どうして火を扱えるのか」「どうして色が黒いのか」ひとつとっても生物学的な理由づけがなされています。しかし、この映画ではそう言った魅力的なモンスターの生態はほぼ活かされていません。カプコン側は生態描写もきちんと盛り込むつもりで「ディアブロス亜種の母性を盛り込むのはどうだろうか」などと提案したようですがそれは最終的な映画ではカットされましたし、本作のリオレウスは「古代人が塔を守るために使ったガーディアン」という設定で、番のリオレイアは影も形もありません。(古代文明を持ち出すなら「イコールドラゴンウェポン*1」を出してくれたら古参ファン歓喜なのに!)

www.cinematoday.jp

藤岡によると、映画の脚本には盛り込まれなかったモンスターのバックストーリーが、亜種の登場に影響しているという。

 「モンスターのバックボーンみたいなものを描いてほしいという話をさせてもらった時に、最終的に脚本には落とし込まれなかったのですが、モンスターにも子供がいて親がいて、子供を守る為に母性本能的な要素を演出として盛り込んでいたんです。ディアブロスは雄なので、『母性などを取り入れるのであれば、雌のディアブロス亜種の方が適していますよ』と伝えました。最終的に脚本は変わっているので、ディアブロス亜種が登場するということだけが残りましたが、企画段階での名残というふうに捉えていただければと思います」

 カットしちゃいかんでしょ。映画で伝わらなければ意味がないんだし。こういうところでもカプコンサイドの発言力の弱さが見え隠れしています。

一応「ネルスキュラは睡眠毒を持つ」「リオレウスは火を吹く」程度の表面的な要素は描かれていましたが、本作に登場するモンスターは、そういった上っ面だけを掬い取った、見た目と名前が同じだけの単なる怪物という状態になってしまっているのがとても残念です。


モンスターが上っ面だけならハンター側もまた然り。

モンハンの基本的なゲームサイクルはモンスターを狩猟し、手に入れた素材で強い装備を作り、さらに強いモンスターに挑むというものですが、この過程で重要な「装備作り」の要素はこの映画ではカットされていました。アルテミスの装備は船から拾ったもの。アルテミスがディアブロス亜種の鱗を剥ぎ取って装備を作るのかと思ったら、気絶したハンターを運搬するためのソリとして使っただけ。ズッコケです。一応二人は遭難している状態で武具を加工してくれる人がいないという事情もありますが、ね。

また、中盤ではディアブロス亜種を倒すためにネルスキュラの毒を利用するという展開になり、まずはネルスキュラから毒を入手するために原始的な紐を使った罠にかけます。いやそこはモンハンらしい落とし穴やシビレ罠じゃないんかい。そして二頭を直接鉢合わせさせれば原作の縄張り争いの再現になったのに。このように原作の要素を活かせる機会をことごとく無駄にしています。またリオレウスを相手にハンターたちが火属性の武器で戦うという原作プレイヤーは失笑ものの描写も。ハンターらしい要素といえば、人間離れした体術だけ。しかもディアブロスに吹っ飛ばされただけで伸びて現代医療器具を使わないと治らないくらいやわだし…

グロ描写

モンスターハンターシリーズはCERO:C(15歳以上対象)で、モンスターの尻尾が切れるなどの欠損描写も存在しますが、映倫G(全年齢向け)のこの映画では尻尾が切れない代わりに、出血描写こそないものの、「バイオ」のノリそのままのグロテスク描写が多数登場します。

例えば…

などなど。

このグロ描写の数々はネルスキュラがメインを張っている前半で顕著。モンハンシリーズは昔から若年層のファンも多く、実際小学生の男の子グループも見に来ている映倫Gの映画なのにこれはいかがなものか、と思わざるを得ません。(自分自身がこういう痛々しいリアルな描写が大の苦手なのもありますけどね…)

音楽

原作の音楽は映画本編では一切使われていません。(※追記)トレーラーで使われていた「英雄の証」や肉焼きのテーマも流れません。モンハンらしさが欠片もないシンセサイザーを多用したデロデロデロデロうるさい音楽が全編にわたって流れ、しかも曲のバリエーションも少ないので飽きます。二時間の映画に対してサウンドトラックが40分しかないことから察してください。

これを聞いただけで全てを思い出す。

比較対象の「名探偵ピカチュウ」「ソニック」でも原作の曲は1、2曲しか使われてませんでしたが、それだけでもちゃんとファンサービス的な役割は果たせていました。

(※追記2021/04/15)吹き替え版を鑑賞した友人に聞いたところ、どうやら日本語吹き替え版限定スタッフロールの吹き替えキャスト紹介で英雄の証が流れたようです。字幕版では聞けませんが。

ポリコレ的な観点

正直言って映画におけるジェンダー平等とかそういった問題には全く詳しくないのですが、この映画のポリコレに関する描写はかなり後退的だと思わざるを得なかったので、取り上げます。

まずは主人公アルテミスの描かれ方について。彼女は部下の男性を「お嬢さん」なんて呼び、それに対して「じきに慣れるさ」と部下たちはぼやき合います。直前に「強い女性」の描き方に対してとても先進的で素晴らしかったディズニー映画「ラーヤと龍の王国」を観ていたせいもありますが、この描写は「女性を下に見ている気がするなあ」と、思わず顔を顰めてしまいました。先述した指輪に想いを馳せるシーンも「私女性だよ!」アピールとして鼻につきましたし。

ゲーム最新作「モンスターハンターライズ」のキャラクタークリエイションがジェンダーに配慮した内容だっただけに、この描き方はいささか後退的です。

文明が未発達な世界の住民である、タイのアクションスター・トニー・ジャー演じるハンターに対して、「先進的な」我々の世界に住む白人女性のミラ演じるアルテミスが「進んでいる」文明について教えてあげる描写も問題視されています。これも白人に対してアジア系を下に見ている感じがしますね。

そして忘れてはいけないのが、中国での先行公開で明るみに出た、中国への差別だと捉えられたセリフ。後にこれは出演している中国系俳優のアドリブだと明らかになります。

www.huffingtonpost.jp

 もし中国での公開が少し遅れて、アジアンヘイトの問題が取り沙汰されている今これが明るみに出たとしたら、もっと派手に炎上していたと思います。モンハンシリーズのブランドに取り返しのつかない傷がつくくらいには。

クソみたいなアドリブのせいで自分の好きなゲームシリーズに泥を塗られる身にもなってみろと。

逆に良かったところって?

  • 船の造形はゲーム準拠
  • 料理長の料理シーンは原作再現完璧。アイルーのコメディリリーフとしての面も表現してくれてると思う
  • 旧砂漠の地形など「ファンサービスをしよう」という意欲はみられる
    「旧砂漠は新大陸じゃない」という矛盾はもはや些細なことです。
  • モンスターの表情筋が最高
    特にリオレウスの顔アップに注目。イケメンです。
  • 衛生描写など、想像力を膨らませてくれるリアリティのある描写は良い
    小説版などで描かれる、例えば携帯食料がまずいなどのリアリティのある食事描写とか、そういうモンハンの世界観の掘り下げは大好きです。今回の映画は視点が我々の世界の人間ということもあり、あの砂漠の水飲もうとしても吐くなとかそういうリアリティのあるサバイバル描写はなかなか面白いです。だからこそ回復薬?の食レポは「チョコレートじゃない」で済ませるんじゃなくてもっと詳細にやって欲しかった。
  • ロゴはかっこいい
    米国での再公開時にはなぜか別のロゴに変えられましたが。
  • 字幕はカプコンの監修がちゃんと入っているようで、固有名詞の誤訳はありませんでした。

まとめ

「面白い映画か」と聞かれたら断固としてノーと答えますし、人に勧められる映画でもありません。しかし「B級怪獣映画」として見たときには普通に頭空っぽにして怪獣パニックを楽しめる映画ではあるし、「クソ映画」かどうか聞かれたら「そこまでひどくはないんだよな…でもひどくないと言われると実際ひどい映画だったし語弊があるんだよな…」と、少なくとも突き抜けたクソ映画ではない、そんな微妙な映画です。

 
モンスターハンター」という作品はその作り込まれた世界観やモンスターの生態、ありふれたファンタジーとは違う未開の世界、仲間と協力して獲物を狩る喜びなど、さまざまな魅力を持つシリーズですが、この映画版はそういった魅力を伝えきれない映画化になってしまったと思うと、とても残念に思います。不幸中の幸いは、同日発売の原作ゲーム最新作「モンスターハンターライズ」の盛り上がりに水を差すような形にはならなかったことでしょうか。

 
「生物としての魅力を剥ぎ取られて恐ろしい怪物としての要素しか残ってないモンスター」と「超人としての側面しかないハンター」による「モンスターハンター」です。

 

 

*1:書籍「ハンター大全」で公開された、古代文明にまつわるボツ設定の一つ。世界観/イコール・ドラゴン・ウェポン - モンスターハンター大辞典 Wiki*参照。

このサイトでは(株)カプコンが定めた基準に基づきモンスターハンターシリーズ及びモンハン日記ぽかぽかアイルー村シリーズのキャラクターを使用した自作のイラストを使用しています。この規定に基づき、当サイトでは
1.既存の画像のデザインそのままの精密な模写、 およびコラージュのように既存の画像を加工したもの
2.倫理的に問題がある内容(過度の性的表現や残虐描写など)や、キャラクターなどのイメージを著しく損なうような内容のもの
3.内容にかかわらず営利目的に使用されていると当社が見なしたもの
4.アイコン・壁紙などの配布を目的としたもの
(規定より抜粋)
に該当するイラストを使用しません。
©CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.